通常、新たなドメインを取得する場合、会社名や商品名など希望する文字列で探すのが一般的だ。そのため「jp」で取得できなくても「com」で取得可能であれば、それで取得するという方が多い。しかし、単に希望の文字列が取得できれば「jp」や「com」といったTLD(トップレベルドメイン)はどうでもいいと考えていると、実は思わぬリスクを抱えることになるかもしれないのだ。
gTLDの意外な盲点
意外と知られていないが、そもそもドメインには大きくわけて2つの種類がある。1つは居住地域や法人・個人に関係なく世界中の誰もが取得可能なgTLD(generic Top LevelDomain)で、「com」や「net」、「org」などがその代表例といえる。もう1つは登録者の居住地域が取得条件となっているccTLD(countrycode Top Level Domain)で「jp」や「kr」などがこれに当たる。。
どちらのTLD もよく見かけるため、普段その差を意識する方は少ないかもしれない。しかし、この2つにはドメイン管理の仕方や運用方法で大きな差があるのだ。
たとえばgTLD の場合、ドメインの管理団体は「レジストリ」、登録業者は「レジストラ」というように2つに役割に分担されている。「レジストリ」はTLD ごとに1社決められており、「com」であればVeriSign 社がレジストリとなっている。一方「レジストラ」は、「レジストリ」のいわば販売会社的な存在であり、世界中に何社もの会社や団体がある。 ここで注意しなければならないのは、この役割分担だ。「レジストリ」はDNS の運用と「レジストラ」の管理が主な業務であり、どのドメイン名が取得されていて、どのドメイン名が取得可能であるかは把握しているが、個々のドメインの取得者が誰であるかという情報は管理していない。それを管理しているのは登録業者である「レジストラ」なのだ。
つまり、万一「レジストラ」が倒産してしまった場合、「レジストリ」には個々のドメインの登録者が誰であるかを確認する術がなく、最悪の場合、ドメインが失効し、行方不明になってしまうリスクがあるわけだ( 実際、こうした例は過去に何度か報告されている)。特にgTLDのレジストラは海外の会社が多く、国内の窓口となっている会社はあくまで仲介業者にすぎないケースも多々ある。その場合、ユーザーが何かトラブルに巻き込まれると、海外のレジストラと直接英文のメールでやりとりしなければならないという厄介さもある。
もちろん、こうしたことが発生しないようにレジストラに対しては、しっかりとした財務状況の会社であることなど高いハードルが設けられている。また、国内にもgTLD のレジストラになっている会社もある( 国内の会社であれば英語でしかやりとりできない心配もない)。ただ、万一のことを考えれば、gTLD の取得には、こうした点を充分に理解してしておいたほうが安心といえるだろう。
ドメイン取得代行サービスの注意点
さて、もう一方のccTLDはどうなっているのだろう。JPドメインを例に説明していこう。JPドメインでは、レジストリである日本レジストリーサービス(以下JPRS)がDNSサーバの運用と個々のドメインの取得者情報の管理を一括して行っている。つまり、販売会社である「指定事業者」とJPRSは取得者の情報を共有しているわけだ。したがって、万一指定事業者が倒産しても、ドメインの登録者が誰だかわからなくなるといった心配はない。
ただ、ここでも注意しなければならない点はある。それはドメイン取得代行業者などを通じてドメインを取得した場合だ。ドメイン取得代行業者とは、本人にかわってドメインを取得し、それを本人に又貸しするサービスだと考えてもらえばいい。
もともとこうしたサービスが生まれてきた背景には、「whois情報」という各ドメインの登録者が誰であるかを簡単に検索できるサービスの存在がある(JP ドメインであればJPRS のホームページから簡単に「whois情報」を調べることができるようになっている)。
本来、「whois情報」とは何か技術的な問題が発生した際の連絡先がわかるように設けられたものだが、個人や女性の場合、ここに自分の名前が表示されることに抵抗を感じる人も少なくはない。その点、ドメイン取得代行サービスを利用すればドメイン登録者は代行業者になるので、「whois情報」に本人の名前が表示されるという心配がないわけだ。
しかし、もしドメイン取得代行業者が倒産してしまった場合、「このドメインは自分が使っていたドメインだ」と主張しても、JPRSではそれを確認する術がないだけに、せっかくのドメインを失効してしまう可能性がある。こうしたサービスを利用する場合にも、この点を充分に考慮しておくべきといえるだろう。。
ドメイン管理・運用の仕組みのちがい
ドメインの管理は、世界中のすべてのドメインを統括しているICANN( 下記参照)を頂点にピラミッド状に各組織が構成されている。gTLDでは各ドメインごとにICANNによって認定された1社のレジストリがDNS の管理を行い、レジストリと契約したレジストラが登録者情報を管理している。レジストラもICANNから経営基盤や財務内容などを厳しくチェックされた上で認定される仕組みなっている。そのためレジストラの数は意外と少なく、国内でも10社に満たない。登録ユーザーはレジストラでドメインを登録できるが、むしろ実際の窓口となっているのはレジストラと契約した仲介業者であるケースがほとんどといえるだろう。
一方、JP ドメインではレジストリであるJPRS がレジストラの役割も担っている。指定事業者はJPRS と契約した販売代理店と考えればいいだろう。また、他の多くのccTLDも、ほぼ同じ仕組みで管理されている。
「whois情報」では、ドメイン登録者の氏名および住所、技術的な連絡窓口のメールアドレスや電話番号などの情報が公開され、誰でも簡単に調べることができるようになっている。gTLDでは、基本的にすべての情報の公開が義務づけられている。
ただ、JP ドメインの場合、個人でも取得可能な汎用jpドメインでは登録者の氏名は表示させるが、住所などを表示するか否かは登録者によって選択できるようになっている。
日本のJPドメインのレジストリが日本レジストリサービス(JPRS)だ。JP ドメインに関するDNS の管理・運営はもとより、JP ドメイン運用に関するすべての規定をここで決めている。
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ICANN(アイキャン)
ICANNはドメイン、IP アドレスといったインターネット上のすべてのリソースを割り当てや標準化、管理を行う組織として1998年10月に設立された。あくまで民間の非営利法人であるが、アメリカ商務省の下部組織となっている。ICANNは世界のさまざまな国の人が参加する数多くの組織で構成されており、ボトムアップ型のプロセスによって組織の運営は進められている。