IPv6にすると速くなる? カギはIPoEの「混雑しにくい経路」

「IPアドレスが足りなくなる」。2000年代後半には、そんな「IPv4アドレス枯渇問題」が盛んに取り上げられた。それから十数年がたち、IPv4アドレスは実際に枯渇した。それでもインターネットは問題なく動いており、いまでは光回線の申し込みのときに「IPv6(IPoE)対応」「v6プラス対応」といった言葉を目にするようになった。「IPv6にすると速くなる」とも言われるが、本当だろうか。今回は、IPv4枯渇のその後と、自宅の回線にIPv6がどう関わっているのかを紹介していこう。
IPv4アドレスは2011年に本当に枯渇した
現在も広く使われているIPv4のアドレスは、約43億個しかない。インターネットの利用者や機器が増え続けた結果、世界全体の在庫を管理するIANAは2011年2月に、日本を含むアジア太平洋地域を担当するAPNICと、国内を担当するJPNICは2011年4月に、通常の割り振りを終えた。その後、欧州のRIPE NCCや北米のARINでも在庫が尽き、いまでは新しいIPv4アドレスはほとんど手に入らない。
IPv4アドレスの在庫が尽きた時期
世界全体の在庫を持つIANAは2011年2月に、日本を含むアジア太平洋地域のAPNICは2011年4月に、通常の割り振りを終えた。ほかの地域も2010年代のうちに相次いで在庫が尽きている
それでもインターネットが困らなかった理由
枯渇してもインターネットが止まらなかったのは、IPv4アドレスを節約する仕組みと、新しいIPv6への移行が同時に進んだからだ。
家庭や会社のパソコンやスマートフォンは、ルーターの内側でだけ使うプライベートIPアドレスを割り当てられ、インターネットとは1つのグローバルIPアドレスを共有して通信している(NAT)。最近は、プロバイダの側でも1つのグローバルIPアドレスを多くの利用者で共有する仕組みが使われている。また、使われていないIPv4アドレスを事業者どうしで移転する仕組みも整い、IPv4アドレスは売買される貴重な資源になった。
一方で、約340澗(かん)個という事実上使い切れない数のアドレスを持つIPv6の利用も広がった。GoogleやYouTube、主要なSNSなど、利用者の多いサービスの多くはすでにIPv6に対応している。国内の光回線でも、IPv6で接続する「IPoE」という方式が標準になりつつある。
「IPv6にすると速くなる」は本当か
結論からいえば、IPv6という仕組みそのものが速いわけではない。速くなることが多いのは、IPv6と同時に使われる「IPoE」という接続方式が、混雑しにくい経路を通るからだ。
NTT東日本・西日本の光回線(フレッツ光や、それを使った光コラボ)では、従来は「PPPoE」という方式でプロバイダに接続していた。PPPoEでは、プロバイダごとに設けられた出入口(網終端装置)を通る必要があり、利用者が集中する夜の時間帯などに、ここが混雑して速度が落ちやすい。一方、IPoEではIPv6の接続事業者が用意した大容量の接続点を通るため、混雑の影響を受けにくい。「夜になると遅い」という悩みが、IPoEへの切り替えで解消することが多いのはこのためだ。
PPPoEとIPoEの通り道の違い
PPPoEはプロバイダごとの出入口(網終端装置)を通るため、利用者が増える夜に混雑しやすい。IPoEはIPv6の接続事業者が用意した大容量の接続点を通るので、混雑の影響を受けにくい
ただし、遅さの原因が回線以外にあれば、IPoEにしても改善しない。古いWi-Fiルーターや、ルーターから離れた部屋での無線接続、パソコン側の性能が原因であることも多い。昼と夜で速度を測り比べ、夜だけ極端に遅くなるようなら、回線の混雑を疑うとよいだろう。
IPv4のサイトも見られる「IPv4 over IPv6」
IPv6に対応していないサイトも、まだたくさんある。IPoEの回線でIPv4のサイトを見るために使われているのが「IPv4 over IPv6」という技術だ。ルーターがIPv4の通信をIPv6で包んで運び、網の出口にある変換装置で包みを外してIPv4のインターネットへ送り出す。サービス名としては「v6プラス」「transix」「OCNバーチャルコネクト」「クロスパス」などがあり、どれを使うかは契約しているプロバイダによって決まる。
IPv4 over IPv6の仕組み
IPv6のサイトにはそのままIPv6で接続し、IPv4のサイトへの通信はルーターがIPv6で包んで運ぶ。網の出口にある変換装置で包みを外し、IPv4のインターネットへ送り出す
この方式では、IPv4のグローバルIPアドレスを複数の利用者で共有することが多い。ふだんのWeb閲覧や動画視聴では問題ないが、自宅でサーバを公開する、ポート開放が必要な一部のオンラインゲームや機器を使う、といった用途では制限が出ることがある。そうした用途がある場合は、プロバイダが提供する固定IPアドレスのオプションなどを検討しよう。
自宅の回線がIPv6(IPoE)になっているか確かめる方法
IPoEを使うには、プロバイダがIPoEに対応していることに加えて、ルーターも対応している必要がある。プロバイダによっては申し込みが必要なこともある。確認する手順は次のとおりだ。
まず、契約しているプロバイダの会員ページなどで、IPv6(IPoE)やIPv4 over IPv6のサービスが有効になっているかを確認する。次に、ルーターの設定画面で、接続方式が「PPPoE」ではなく「v6プラス」「DS-Lite」「IPv6オプション」などになっているかを見る。最後に、IPv6の接続を判定できるWebサイト(「IPv6 接続テスト」などで検索すると見つかる)にアクセスすると、IPv6で通信できているかを確認できる。プロバイダが判定ページを用意していることも多い。
ルーターがIPv4 over IPv6に対応していない場合、IPv6のサイトだけがIPoEで、IPv4のサイトは従来のPPPoEのままになり、効果がほとんど感じられないこともある。古いルーターを使っている場合は、プロバイダのレンタル品や、対応方式が明記された製品への買い替えを検討しよう。
サイトを運営する側はIPv6に対応すべきか
自分のサイトを持っている人は、サーバのIPv6対応も気になるところだろう。サイトがIPv6に対応しているかどうかは、ドメインのDNS設定にIPv6のアドレス(AAAAレコード)が登録されているかで決まる。パソコンのコマンド「nslookup -type=AAAA ドメイン名」や「dig AAAA ドメイン名」で確認できる。
レンタルサーバのIPv6対応は、事業者やプランによって異なる。ただし、サイトがIPv4にしか対応していなくても、IPv6回線の利用者はIPv4 over IPv6を通して問題なく閲覧できるので、すぐに困ることはない。サーバを選ぶときに、料金や性能とあわせて確認しておく項目の1つと考えればよいだろう。
接続方式ごとの違いのまとめ
自宅の光回線でよく使われる接続方式を整理しておこう。
| 接続方式 | 夜の混雑 | IPv4のサイト | 注意点 |
|---|---|---|---|
| PPPoE(IPv4) | 網終端装置で混雑しやすい | 見られる | 従来からの方式。ポート開放などは自由にできる |
| IPoE(IPv6)のみ | 混雑しにくい | PPPoEを併用して見る | IPv4のサイトでは効果がない |
| IPoE+IPv4 over IPv6 | 混雑しにくい | IPv6で包んで見る | 対応ルーターが必要。ポート開放などに制限が出ることがある |
| IPoE+固定IPオプション | 混雑しにくい | 見られる | 追加料金がかかる。サーバの公開などにも使える |
よくある質問
IPv6にすればインターネットは必ず速くなりますか?
必ずではない。速くなることが多いのは、IPoEという接続方式が混雑しにくい経路を通るためで、夜に回線が混雑していた場合に効果が大きい。Wi-Fiやルーター、パソコンが遅さの原因なら、IPv6にしても改善しない。
IPv4アドレスはもう枯渇したのですか?
枯渇している。世界全体の在庫は2011年2月に、日本を含むアジア太平洋地域では2011年4月に通常の割り振りが終わった。現在は、アドレスの共有や事業者間の移転、IPv6の利用によってインターネットが支えられている。
v6プラスとIPoEは何が違いますか?
IPoEはIPv6で接続する方式のことで、v6プラスはIPoEの回線でIPv4のサイトも見られるようにするサービス(IPv4 over IPv6)の1つだ。同様のサービスに、transix、OCNバーチャルコネクト、クロスパスなどがある。
自宅の回線がIPv6になっているかはどう確かめますか?
プロバイダの会員ページでIPv6(IPoE)が有効か、ルーターの接続方式がPPPoE以外になっているかを確認する。IPv6の接続を判定できるWebサイトやプロバイダの判定ページにアクセスすれば、実際にIPv6で通信できているかがわかる。
自分のサイトはIPv6に対応しないといけませんか?
急ぐ必要はない。IPv6回線の利用者も、IPv4 over IPv6を通してIPv4のサイトを問題なく閲覧できる。サイトの対応状況はDNSのAAAAレコードで確認でき、レンタルサーバの対応は事業者やプランによって異なる。
ピックアップ用語解説:IPoE(IP over Ethernet)
光回線でインターネットに接続する方式の1つ。従来のPPPoEのようにIDとパスワードで接続する手続きが不要で、IPv6の接続事業者が用意した大容量の接続点を通るため、混雑の影響を受けにくい。国内の光回線では、IPv6の接続にこの方式が使われている。
ピックアップ用語解説:NAT(Network Address Translation)
プライベートIPアドレスとグローバルIPアドレスを変換する仕組み。家庭のルーターは、NATによって1つのグローバルIPアドレスを複数の機器で共有している。プロバイダの側で多くの利用者がアドレスを共有する仕組みはCGN(キャリアグレードNAT)と呼ばれる。





